2026.02.02

連載「博士のホップノート」|付録 ホップの育て方

大規模商業生産、小規模商業生産、個人観賞用など、さまざまな目的でホップを育てている方がいらっしゃるでしょう。国内大手ビールメーカーやクラフトブルワリーと契約して商業生産を行っている場合や、地域おこしの一環として取り組んでいる場合、またはベランダで観賞用として育てている場合など、栽培環境や品種もさまざまだと思います。

ここでは、肥培管理体制が体系だって整理されている大規模商業生産の例をもとに説明いたします。小規模生産や観賞用の場合には、その考え方を応用してご理解ください。後半では、よくご質問をいただく内容や、ホップを育ててみた「あるある」についてもご紹介します。

成長のフェーズ

ホップは「苗」を植え付けるところから始まります。種ではありません。種が登場するのは、育種の場合のみです。一時、ホームセンターで有名品種名の付いたホップの種が売られていたと聞いたことがありますが、それはありえません。Cascadeに付いた種には、遺伝的に花粉由来の遺伝子が混ざっていますから、元のCascadeとは間違いなく異なるホップになります。

植え付けは春または秋に行います。冬が終わり、春の訪れと同時に萌芽してきます。30㎝以上伸びてきたら、糸や支柱に絡めてあげます。上から見て時計回りです。気温の上昇とともに、ぐんぐんと伸びていきます。葉の付け根付近から枝(側枝といいます)も伸び始め、全体に厚みを持ち始めます。やがて毛花が咲き、毛のように見えていた柱頭(めしべ)が枯れ、次第に毬花へと変わっていきます。

一般的に、植物の成長には二つのフェーズがあります。栄養成長と生殖成長です。栄養成長は、植物自身の体を大きくする成長期間です。一方、生殖成長とは文字通り、種を残すための成長期間になります。種を作る前に花を作り、花を咲かせます。この花を作り、咲かせるための成長を花芽分化と言います。

ホップの場合、毛花が本当の花であるため、その前から花芽分化は始まります。栽培に慣れてくると、その兆候は一目でわかるようになります。花芽分化を境に、栄養成長から生殖成長へと切り替わるのです。

この切り替えのスイッチとなるのが、温度と日長です。温度は桜の開花予想にも利用されていますが、平均気温や最高気温の積算で表現されます。ホップの場合、品種にもよりますが、前者が1400℃、後者が1200℃というデータもあります。これらの温度に達すると、開花に至ります。

日長については、日本国内ではあまり意識することはありませんが、海外では驚きをもって体感することがあります。ホップの大産地であるドイツ・バイエルン地方を夏に訪れると、夜10時になっても日が沈みません。北緯49°です。ドイツの品種を日本に持ってくると、極早生になります。岩手でも、生育途上の5月に毛花をつけてしまい、ホップ棚はスカスカな状態になります。緯度が約10°異なる北緯39°の岩手では、気温のみならず日長も異なるため、生殖成長へと切り替わってしまうようです。

イギリスやチェコの品種でも同様で、ヨーロッパの品種を日本で栽培してもうまくいきません。品種によっては例外もあるようで、例えばドイツのMagnumは、遠野においても立派に育ち、8月に収穫を迎えます。品種ごとに、温度や日長に対する感受性の違いがあるようです。

ホップの育て方 −作業−

ホップの一年の流れを、簡単に次の表にまとめてみました(「ホップ栽培歴 令和5年発行 岩手県ホップ連合会、全国農業協同組合連合会岩手県本部、岩手県農業共済組合」を参考)。このあと、作業ごとに解説を加えていきます。対象とする品種は「キリン2号」と「かいこがね」です。この2品種は、収穫後の品質に大きな差がないため、IBUKIとして取り扱っています(2015年商標登録)。もうひとつが「MURAKAMI SEVEN」です。

株開き

前年に収穫を終えたホップは、地上1m程度の一部の蔓を残します。その後、秋に地ぎわからすべて刈り取り、厚めに土を被せます。冬を越すための準備です。

春になると、作業はこの土をどけるところから始まります。今年の作業の始まりを告げる、という意味もあるのでしょうか、「株開き」と呼ばれています。簡単に土が取り払えない状態のものもあり、最初から重労働になります。作業を軽減するために、コンプレッサーで作った圧縮空気を吹き付けている生産者もいます。

左の写真はキリン2号です。前年の蔓が付いたまま、きれいに株開きされています。やや作業が遅かったのか、すでに芽が伸び始めています(白い部分)。
右の写真はMURAKAMI SEVENです。様子が異なり、ややごちゃごちゃしています。前年の蔓の根元部分から、細い根が噴き出ているのです。これを上根(うわね)と言います。土を抱き込んでしまうため、株開きが大変になります。

土寄せという作業の程度を調整することで、上根の発生を抑制することもできますが、多収なMURAKAMI SEVENの特徴のひとつでもあります。

株拵え

前年の蔓は、土が被った部分は翌年になっても生きています。この部分を鋭いカマを使って、きれいに除去してあげます。この剪定にも似た、株をきれいにする作業を、株拵え(かぶこしらえ)と言います。

この作業は、萌芽する芽の数をコントロールするために行います。芽数を絞り込み、株の栄養を集中させるのです。もしこの作業を怠ると、多くの芽があちこちから現れ、細く弱い蔓ばかりになり、まともな収量は望めません。

株拵えを終えた株は、日光に当てて切断面を紫外線で殺菌した後、土を寄せて乾燥から守ります。

蔓誘引・蔓上げ

ホップ棚の上部から垂れ下がった糸に、蔓を巻き付けてあげます。同時に、萌芽してきた蔓の間引きや整理も行います。英語では training と言いますが、世界中どこでも手作業です。

10a当たり約1,000本の蔓を巻き付けます。日本の平均栽培面積は0.6haほどですので、約6,000本を作業することになります。ドイツの平均面積を20haとすると約20万本、アメリカでは100haを軽く超える規模も珍しくなく、100万本以上に達します。そのため、大きな生産地では国をまたいで応援を要請することもあります。

蔓下げ

この作業は、キリン2号とかいこがねに固有のものになります。これらの品種は、蔓が伸び過ぎてしまうのです。ホップ棚の高さが5.5mであるのに対し、蔓は10数mにも伸びるため、調整が必要になります。

棚の上部に届きそうになったら、いったん糸から離し、蔓の先が目の高さ程度になるまで下げてあげます。余分な蔓は、葉を取り去ったうえで、とぐろ状に2〜3重の輪に畳み込みます。

MURAKAMI SEVENでは、この作業は不要です。蔓の伸びる速度が安定しており、一定だからです。一方、キリン2号とかいこがねは、良好な天候条件がそろうと、急激に伸びてしまう性格があります。

側枝摘芯

こちらも、キリン2号とかいこがねに固有の作業になります。これらの品種は、縦方向だけでなく横方向にも伸びやすい性質を持っています。横方向には、側枝と呼ばれる枝が伸びてきます。この枝に花が付き、毬花が実るのですが、伸び過ぎた側枝は風に弱く、折れてしまうと枯れて収穫できません。そこで、側枝が伸び過ぎないように長さを調整するため、側枝の先端をカットし、成長を抑制します。

MURAKAMI SEVENでは、この作業は不要です。側枝の成長が、ちょうど良い長さで自然に止まります。

ここまでの作業では、ホップ棚という空間にホップをどのように配置するかを考え、天候を予測し、成長を見極めながら、人の手で操作・調整していきます。毬花が、棚の上から下まで満遍なく、整然と配置される状態が理想です。

収穫までは、十分な日射量と降水量があり、台風などの強風が吹かないことを祈りつつ、毬花の熟成を待ちます。ただ、最近は穏やかな天候があまり続かなくなってきたように感じます。毬花の成熟期に、毎日雨が降り、お日様がほとんど顔を出してくれなかった年(2022年)もあれば、晴天ばかりで降水量がほとんどなかった年(2023年)もあり、収量は乱高下しています。

人の手によってどこまで操作できるのかは分かりませんが、作業体系そのものを考え直す必要があるのかもしれません。この点については、章末で改めて触れます。

春先の天気は正確に予測できないため、株拵えや糸付けは、秋のうちに済ませてしまう傾向があります。春にはさまざまな農作業が重なりますし、雪解けや土の湿り具合によって、作業ができる日とできない日が生じてしまいます。春の時点で致命的な作業遅れが発生しかねないため、前年の秋のうちにできることはやってしまうのです。

生産者には、天気の予測や作業段取りのシミュレーションなど、考えなければならないことが山積みです。遠野ホップ農協の安部純平組合長の言葉が印象に残っています。「俺たちは毎年、1年生!」。同じ年は二度と来ない。生産者は自然に対して、常に謙虚に向き合うべきだという意味でしょう。格好いい言葉ですが、悔しい思いも嬉しい思いも何度も繰り返してきたからこそ生まれた、実に深い言葉です。

ホップの育て方 −施肥−

化成肥料の袋には、必ず成分表が付いています。N、P、Kがそれぞれ何%ずつ含まれているかが明記されています。Nは窒素、Pはリン、Kはカリウムを表しています。それぞれの役割は次の通りです。

窒素:アミノ酸やタンパク質の合成
リン:ATPなどを介したエネルギー代謝、核酸の合成
カリウム:細胞内の物質代謝、pHや浸透圧など、生理状態の維持

これらはいずれも、植物の成長に特に必要な元素です。ホップに必要な量は、次の通りです。

元肥は初期生育を旺盛にし、植物体そのものを大きくすることを目的とします。一方、追肥は花芽数の増加や毬花の肥大を促進するためのものであり、それぞれ目的が異なるため、施肥の時期も異なります。ホップは植物体としてかなり大きくなるため、肥料も多く必要とします。ただし、肥料を単に多く与えれば良いというものではありません。成長に合わせて、必要な量を適切に吸わせることが肝心です。元肥は、施肥済みの土を株元に土寄せすることで、効かせ方を調整できます。追肥は、即効性を期待して行います。

例えば、栄養成長期に過剰な窒素を与えると、蔓の伸びは旺盛になりますが、蔓は極太となり、葉も著しく大きくなり、全体として過繁茂な状態になります。畑はうっそうとし、畝の中は日陰だらけになります。このような状態になると、毬花に日光が届かず十分に成長できない、病気が発生しやすくなるなどの害が生じます。肥料は、ケチっても、与えすぎてもいけないのです。

窒素、リン、カリウム以外にも、微量要素(欠乏すると生理障害が起こります)や、石灰肥料(土壌改良)も重要な役割を果たします。葉の色が黄色い、まだら模様が出ている、細くて伸びが悪い、肥料の効きが悪いなどの異常が見られる場合には、これらを試してみてもよいでしょう。なお、観賞用のベランダ栽培では、大きく育てたくない場合も多いでしょうから、市販の園芸用液体肥料をこまめに与えてみてもよいでしょう。

ホップの育て方 −病虫害、自然発生被害−

主な病虫害や、自然条件によって発生する被害をまとめてみました。

べと病、灰色かび病、うどんこ病はいずれもカビによる病気です。世界中で発生します。べと病はシーズン初期から現れることが多く、防ぐためには兆候を見逃さないことが重要です。見つけた場合は、消毒液を散布するしかありません。カビは感染すると分生胞子を飛ばし、感染域を拡大しながら増殖していきます。この拡大を止める必要があります。最初の発生情報は、瞬く間に生産者の間で共有されます。まず初期防除が行われ、その後は定期的に散布を続けます。

ノミハムシは春先に発生する、体長3〜4mmほどの小さな飛翔昆虫です。萌芽したばかりの芽の先端や、展開したばかりの幼い葉を食害します。時に大発生することがあります。MURAKAMI SEVENの増殖を始めた初期のころに被害を受けました。一枚の畑の大半が食い荒らされ、生育不良となり、枯れてしまった株も多数ありました。その年の収量も、無残な結果となりました。

フキノメイガ(正確にはアズキノメイガのようです)の幼虫による被害もあります。生育が繁茂期に入った後、蛾が産卵し、その幼虫が被害をもたらします。幼虫は蔓の内部、芯の部分に侵入して食い荒らします。侵入した部位より上部は、真っ赤に枯れ上がります。ノミハムシ、フキノメイガともに、防除には殺虫剤を使用するしかありません。

ダニは生育後期によく見られます。被害が進むと、葉は真っ赤に枯れ上がります。ダニの場合、食害が目に見えてからでは手遅れだと言われています。成虫に効く薬剤はあまり多くなく、効果的なのは卵の段階での防除です。ただし、世代交代は2週間前後とも言われ、突然変異による薬剤抵抗性が付きやすいため、殺ダニ剤の散布は1シーズンにつき1種類1回のみとされています。同じ薬剤を2回使用することは禁じられています。

ダニは乾燥した環境を好むため、ベランダ栽培では特に注意したほうがよいでしょう。

動物による被害では、野ネズミがあります。冬の間に株が食べられてしまいます。畝の中を移動しながら食害するようで、畝単位で被害が出ます。株拵えを秋に行うとネズミを呼ばない、とベテラン農家は言っていました。可食部を少なくすると、諦めるのかもしれません。

最近増えてきたのが、春先に芽を食べられてしまう鹿の食害です。鹿自体は昔からおり、畑に残る足跡でその存在を確認していましたが、個体数がかなり増えたためか、近年はホップを食べるようになりました。

最後は、気象という自然による影響です。

早期開花とは、本来の開花時期よりもかなり早い段階で開花に至る現象です。気温の上昇の影響でしょうか、生殖成長へ切り替わる積算温度に達するまでの期間が早まっています。十分な栄養成長ができていないため、植物体が小さいまま花を付けてしまいます。蔓の伸長や側枝の発生も不十分となり、毬花の数が大幅に減少し、減収につながります。

降水量に関しては、水不足による干ばつ、水過多(排水不良)による水やけがあります。ひどい場合には、生育初期に水やけを起こして根にダメージ(根腐れ。下葉が黄色くなります)を受け、その後、毬花成熟期に一転して干ばつになることもあります。

ベテラン農家はこう言っていました。ホップで大切なのは土づくりであり、水はけが良く、かつ水持ちの良い土が重要だと。一見、相反する性質を持つ土壌ですが、有機質肥料を用い、何年も何年もかけて深いところまで耕すことで、ようやく出来上がるそうです。そのような畑は自然災害にも強く、どのような年でも収量が安定しています。

雹や強風は、運の要素が大きい災害です。雹は時折発生しますが、通り道があるようで、わずか数m離れただけで何事もなかったような場合もありました。大陸性気候のドイツでは、時折大きな被害が発生します。

強風については、品種で対応できる可能性があります。MURAKAMI SEVENの側枝は、ちょうど良い長さです。短すぎると毬花数が少なくなり、収量が上がりません。一方で、長すぎると、たわわに実った毬花の重さに耐えきれず、枝が折れてしまいます。風にも弱くなります。そこには「ちょうど良い」ポイントがあります。今のところですが、MURAKAMI SEVENで枝折れを見たことはありません。

ホップの収穫

大規模商業生産や小規模商業生産では機械を使用しますが、少量の場合には手摘みで収穫しているところも多いと思います。品種にもよりますが、経験上、ひとりで手摘みを行った場合の収穫量は、1時間あたり生花で1.0〜1.5kgほどでしょう(乾燥すると、その約1/4程度になります)。

多くの量を収穫する場合には、イベント形式にして人手を集めているところもあります。一方で、大規模に商業生産を行っている場合には、1日に1ha、乾燥毬花で2t以上を収穫する日もあります。ここでは、どのような機械で収穫が行われているのかをご紹介しましょう。

畑では、蔓ごとホップを切り落とし、トレーラーに積み込んで、収穫機械の待つ収穫センターへ運ばれていきます。

収穫センターの機械は、①摘花部、②選別部、③乾燥機の三つから構成されています。

摘花部

ホップの蔓から毬花を摘み取り、分離するための機械です。

ホップの蔓は、畑での姿とは逆に、上下をひっくり返した状態で摘花機の内部へ運ばれていきます。内部はスリット状の構造になっており、ホップが通過する両側には、爪のようなU字形のフックが多数配置され、高速で走行しています。ホップが通過する際に、このフックが毬花を弾き飛ばす仕組みです。

内部構造の模式図を、以下に示します。1948年に登録されたアメリカの特許からの引用です(US Patent 447122)。古い特許ではありますが、基本的な構造は現在と変わっていません。

ただし、当時と異なる点として、フックが走る向きが逆で、下から上へ動いています。遠野では、上から下へ走る方式です。品種も異なるでしょうから、何らかの理由があったのだと思われます。

このようにして毬花は蔓から分離されますが、当然ながら、葉や切断された蔓の一部も混じってきます。次の選別部では、これらを取り除き、毬花のみを選別します。

選別部

選別部の基本原理も、いたってシンプルです。
毬花の「毬」という形状の性質を利用します。坂道でボールを落とすと、上から下へ転がっていきますが、それと同じ原理です。

角度を付けて上向きに走るベルトコンベヤの上に毬花を落とすと、毬花は丸い形をしているため、転がって下部に落ちていきます。一方、葉や蔓は転がることができないため、ベルトコンベヤに乗ったまま上部へ運ばれます。

1974年の特許では、選別用のベルトが多段式に設置されています(US Patent 3799338)。古い特許ではありますが、その基本的な仕組みは現在と変わっていません。選別部の上部は摘花部とつながっており、未選別のホップが供給されます。鋭角に設置された4台の選別ベルトによって、上から順に毬花と葉、蔓片が分けられ、最終的に一番下に毬花が集められます。

品種改良においては、機械化への適性も重要な評価項目です。摘花部では、一つ一つの毬花が分離しやすい特性が求められ、クラスター状に鈴なりで付く毬花を持つホップは不向きです。また、選別部では、毬花が丸みを帯び、転がりやすい特性を持つことが求められます。

乾燥機

最後は乾燥機です。60℃の温風を当てて乾燥させ、水分を日本では9%台まで下げます。60℃という温度は世界共通です。60℃を超えるとルプリンが焦げ、ココア様の匂いが付いてしまい、本来の香りが失われてしまいます。60℃より低い温度でも乾燥は可能ですが、その分、乾燥時間が長くなります。

乾燥方式には、静置型のバッチ式、ドロップダンパー式、連続乾燥式がありますが、ここでは遠野でも使用している連続乾燥式について説明しましょう。乾燥段数が3段の場合です(Vasilievら 2020 より改変引用)。

ベルトコンベヤでゆっくりと運ばれながら、下部から送られる温風によって乾燥が進みます。1段目のコンベヤの先から落ちた毬花は、2段目のコンベヤに載って再び乾燥され、3段目も同様です。3段目の出口に到着するころには乾燥が仕上がるよう、コンベヤの速度を調整します。

ドロップダンパー式は、垂直方向に多段で設置されたチャンバーが特徴です。上段から下段へと移行しながら乾燥が進んでいきます。段を移行する際には、チャンバーの底部が扉のように開き、内容物が一斉に下の段へ落下します。名前の通りの乾燥方式です。この方式は、ニュージーランドでよく目にしました。

ホップ栽培、あるある!

毛花が咲かない、毬花を付けない

キリンビール滋賀工場に勤務していた時代、工場長から「見学者用に展示しているホップの面倒を見てほしい」と頼まれました。繁茂していないし、そもそも毬花を付けない、というのです。見てみると、株拵えもされておらず、ほったらかしの状態でした。それはそうだろう、と内心思いながら、自信満々で管理を始めました。

ところが、なかなか毛花が咲いてきません。これはおかしい、と原因が分からず首をかしげていたところ、ふと目に入ったのが外灯でした。数mほど離れた場所にあり、従業員用通路の安全確保のため、夜間はずっと点灯していました。

これだ、と思いました。管理部門に頼み、ホップに光が当たらないよう遮光してもらったところ、無事に毛花が咲き、毬花を付けました。この章の冒頭で、生殖成長への切り替わりのスイッチは「温度と日長」だと説明しましたが、外灯の光であっても、夜間にホップに当たると、「日が長い」と強烈に誤解し、栄養成長が続いてしまうのです。その結果、毬花を付けなくなります。

この現象は、その後、各地から寄せられる相談の中にも含まれていました。別の複数の工場でも同じことが起きていましたし、趣味で自宅の庭やベランダで育てている方からも、同様の話を聞きました。ホップを育てるのであれば、夜間は真っ暗な場所を選ぶことをお勧めします。

ここで、逆の話もあります。かつて福島にあったホップ産地(現在はありません)では、ホップ棚に電灯を取り付け、夜間に点灯していました。薄明かり程度です。あえて生殖成長を遅らせ、栄養成長を延長させていたのです。栄養成長の期間が長くなれば、毬花を付ける部分(節位)の数が増え、収量が増します。十分に育った段階で夜間照明を止め、生殖成長へと誘導します。

この栽培方法は現在では使われていませんが、キリンビールから特許が出されています。早期に開花するヨーロッパ品種を育てる場合には、有効かもしれません。ホームセンターに行けば、ソーラーパネル付きの防水電灯が普通に売られていますので、興味のある方は試してみてもよいでしょう。

ベランダで栽培していたら、急に枯れた

畑ではなく、プランターや園芸用ポットで栽培している場合に、突然枯れてしまう現象があります。さまざまな要因が考えられますが、まず確認したいのは日当たりと温度です。西日が当たる場所に黒色のプランターを置いていませんか。相当、熱くなっている可能性があります。根や株が高温に耐えきれず、焼けてしまうのです。ホップは本来、地中深くまで根を張る植物ですから、地下部は意外とデリケートで、熱には弱いようです。

ベランダ栽培の場合は、先述したようにダニにも注意しましょう。葉の裏にクモの巣状の糸を張り、どんどん増殖します。ホップでグリーンカーテンを作りたい、という話はよく聞きますが、ホップはダニが付きやすいため、十分に注意してください。水やりの際には、できれば葉の裏側にも水をかけてあげるとよいでしょう。葉が濡れていると糸を張れなくなるため、ある程度は発生を抑えることができます。

春に芽が出てこないと思ったら株が腐っていた

これは最近の経験で、新しい栽培地でも観察されている現象です。前の年までは健全に育っていたはずの株が、翌春になると腐っているのです。土壌に何らかの問題がある場合も考えられます。例えば、水がたまりやすく、冬の間に凍結と融解を繰り返すような場所では、株がダメージを受けます。

それでも、どうしても説明がつかない点があります。病気であれば、一帯に発生していてもよいはずですが、被害株はとびとびに散見され、そのような傾向は見られません。冬の低温下で進行する病気があるのでしょうか。いまだに原因は不明です。

見落としがあるとすれば、秋かもしれません。収穫が終わると、当面は畑に行く用事がなくなり、どうしてもほったらかしになりがちです。その間に、何かが起きている可能性があります。ヒントをくれたのは、元江刺ホップ農協職員で、現在は遠野ホップ農協の嘱託職員である佐藤徹さんです。20歳代からの長年の相棒でもあります。

話によると、蛾の中には、飛翔しながら産卵し、樹木を含むさまざまな植物に卵を産み付け、孵化した幼虫が植物体内に侵入して食い荒らす種類がいるそうです。コウモリガの類です。収穫後に残ったホップの蔓は、まだ光合成を行っているため、そのままにしておきます。株にとって良かれと思ってのことですが、その間に卵が産み付けられているとしたら、これは今まで考えたこともありませんでした。

遠野ホップ農協組合長の安部純平さんの畑でも、株が腐る現象が頻繁に観察されています。秋に株拵えを行ったところ、株の中から多数の小さなイモムシが見つかったそうです。孵化の時期が異なるため、コウモリガではなさそうですが、同じ類の蛾である可能性は否定できません。

もしこれが原因だとすれば、収穫直後に地上部をすべて刈り取ることで、被害は免れられるはずです。現在、実験を行っている最中ですが、収穫の終了が管理の終了ではない可能性が見えてきました。ほんとうに、毎年が一年生です。

将来のホップ栽培のために

2022年、化成肥料の価格が急騰しました。ロシアのウクライナ侵攻に伴い、海外に依存してきた肥料原料の価格が上昇したためです。これはまずい事態になりました。生産者の収入を直撃するからです。ホップ収入に頼って生活している移住者のことを思うと、何か手を打たなければならないと、誰もが感じました。

そこで提案したのが、糞尿肥料の活用です。化成肥料は使いやすく即効性もあり、非常に重宝されてきました。その結果、化成肥料への依存は相当なものになっています。しかし今回の事態では、その大きな依存が逆に足を引っ張る構図となりました。この提案を行ったのは、遠野ホップ農協内の飯豊生産組合で、5件の農家が共同で収穫を行っています。

家畜の種類によって、糞尿の成分は異なります。そのため、ケースごとに計算し、施肥案を作成しました。問題は入手先です。輸送費を考えれば、地元に供給元があるのが理想的です。市役所にも協力してもらい、地元で肉用として平飼いされているニワトリの鶏糞を、無料で入手できることが分かりました。量も想定以上でした。有償で処理していた100t以上の鶏糞の引き取り手が見つかったわけですから、供給元にとっても文字通りWin-Winの関係です。

次の課題は、使いこなせるかどうかです。移住者が大半を占める飯豊生産組合では、誰もが経験のない取り組みでした。糞尿などの有機質肥料は、土壌中の微生物によって、植物が吸収できる形に変えられます。鶏糞の場合、窒素は尿酸の形で含まれていますが、植物は硝酸態窒素にならなければ吸収できません。天候も考慮しながら、いつから、どの程度効いてくるのかを把握するには、経験に頼らざるを得ません。効くタイミングや強さを誤ると、病気の大発生などのリスクもあります。

しかし、まじめな農家には「勘」というセンスがあるようです。初めての取り組みでしたが、過不足のない施肥ができており、お見事でした。その結果、化成肥料の使用量も大幅に削減でき、コストを大きく下げることができました。これなら続けられます。そして次に必要なのは、使用技術の体系化です。体系化できれば、教えることもできますし、技術を次世代に伝承することもできます。何より、収量の安定化につながります。

以前から、人工知能、AIには興味がありました。農業のAI化という言葉はよく耳にしますが、調べてみるとハウス栽培や屋内栽培が中心で、野外の露地栽培を対象とした具体例は、なかなか見つかりませんでした。無理なのか、と思うほどです。

しかし、遠野のホップ生産では、移住者が技術を継承するケースが増えてきています。まったくのゼロから教えを請う状況です。そんな中で、AIが先生代わりになってくれたら、どれほど心強いでしょうか。

研究所時代の最後期に、アングラな研究テーマとして手を出してみました。データとして用いたのは、農家の作業日誌です。いつ、どのような作業を行い、どれだけ肥料を施したのか、その記録をお借りしました。ただし、個人の記録には個性があり、翻訳に時間を要することも多く、抜けている記録もありました。なるほど、データ化するだけでも一苦労です。

気象データは気象庁からダウンロードできます。解析については、誰もが知る大手IT企業のエンジニアに相談しました。飲みながら話してみたところ、大いに乗り気ではありませんか。何とも頼もしい存在です。

出来上がったのは、ホップの一年を再現するモデルでした。気象データを読み込みながら、次の作業のタイミングを教えてくれます。さらに、遠野のデータで作ったモデルを、隣の秋田県横手市に当てはめてみました。横手の気象データを用いてAIが計算し、作業タイミングを示してくれたのですが、それが実際の作業とぴったり一致していました。可能性に手応えを感じつつも、現役の時間が切れたため、ひとまず休止しました。

今回、化成肥料の高騰によって環境が大きく変わり、無料の鶏糞を使い始めました。肥培管理体系が、今まさに大きく変わろうとしています。これはチャンスです。正確で丁寧な作業記録を残すようお願いしていますし、定期的な生育データの記録も始めました。2025年のデータがそろい次第、解析を開始し、モデル構築に再び挑戦します。

引用文献

  • Vasiliev, A. O., Andreev, R. V., Smirnov, M. P., Pushkarenko, N. N. and Zaitsev, P. V., Hop drying process research in industrial dryers, IOP Conf. Ser.: Earth Environ. Sci. 433 012032, 2020

目次

はじめに             

第1章 ホップの苦味の科学

・はじめに抗菌性あり!
・α酸を貯蔵するルプリンの役割
・ホップの抗菌性
・抗菌性のメカニズム
・ホップの苦味成分たち
・Cohumulone論争
・苦味成分の脇役たち
・フルーツビールの教え
・苦味価とは
・ノート1-1 毬花
・ノート1-2 pH
・ノート1-3 成分の性質
・ノ-ト1-4 分析法について
・引用文献

第2章 ホップの香りの科学

・香り成分分析技術の進歩のおかげ
・ホップとビールでの成分組成の違い
・ホップ香気成分の世界
・香気成分の間に起こる相互作用
・香りはどうように感知されるのか
・香気成分データの解析
・ホップ品種の香気のアイデンティティーはどの様に決まる?
・ノート2-1 テルペン類
・ノート2-2 濃度単位のお話し
・ノート2-3 含硫成分の分析
・ノート2-4 多変量解析
・引用文献

第3章 ホップ使用技術

・ビールの作り方
・苦味の付け方
・ホップ香気の付け方
・ホップの加工・調製品
・生ホップの特徴とは
・ルプリンパウダーの教え
・引用文献

第4章 ホップの育種

・交配育種の始まり
・雄ホップと交配育種
・遺伝の基礎
・ホップの遺伝学
・Cohumulone(Coh)論争の考察
・新ホップ品種MURAKAMI SEVENのいきさつ
・ホップ品種のアイデンティティーとは
・ホップのテロワール
・ノート4-1 遺伝学用語の解説
・ノート4-2 成分比率の実験系の補足
・引用文献

第5章 ホップの進化遺伝学

・分子進化遺伝学
・PCRの登場
・分子進化時計
・野生ホップ収集開始
・世界の野生ホップのDNA解析
Humulus属の構成
・DNA塩基の違い
・ホップの起源の地
・分岐年代の推定
・ホップの伝播のシナリオ
・マイクロサテライトDNA多型
・コーカサス地方のホップ
・日本の野生ホップ
・日本野生ホップ、カラハナソウの分布
・カラハナソウと氷河期(最終氷期)との関係
・ノート5-1 分子進化時計のキャリブレーション
・ノート5-2 マイクロサテライトDNA多型
・ノート5-3 コーカサス集団とヨーロッパ集団の分岐年代推定
・引用文献

第6章 ホップを取り巻く環境の変化

・ビール事情の変化
・世界のホップ育種事情の変化
・世界のホップ生産事情の変化
・日本のホップ事情
・遠野、Now!
・ホップの新たな可能性-ホップの健康機能性-
・引用文献

付録:ホップの育て方

・成長のフェーズ
・ホップの育て方-作業-
・ホップの育て方-施肥-
・ホップの育て方-病虫害、自然発生被害-
・ホップの収穫
・ホップ栽培、あるある!
・将来のホップ栽培のために
・引用文献

おわりに

※校正しながら連載を進めますので、目次の一部が変更となる可能性があります

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